理系男子が近代史を学ぶ理由【科学史】

「僕は理系だし、歴史を学ばなくてもいいんじゃないの?歴史を学ぶ面白さはあるの?」

そんな疑問にこたえます。

今回は、歴史と科学や技術のつながりについて紹介したいと思います。

僕の物理学の勉強歴は12年ほど。研究者として生計を立てつつ、サイエンス・エバンジェリストとして科学技術を世間に伝えるための教育活動もしています。男子と自称していいのかは微妙ですが、多めにみてください。

物理といえば自然現象の法則を探求する学問です。人間社会とは切り離された学問といえるでしょう。そんな僕が近代史に興味が湧き始めた理由は、科学史を学び始めたことです。歴史を知っていると、科学や技術を学ぶときにより一層の楽しみを感じることができます。

今回はそのきっかけをお話ししたいと思います。

科学と歴史は関係ない?

自然法則において、歴史は関係ありません。世界に存在する法則を人類がみつけてきたわけで、ある物理現象がいつ・だれに発見されたのかということは本質的に意味がありません。工学は社会との結びつきがあるので歴史と結びつきは深いでしょうが、現象や仕組みを理解する意味では必要性はないわけです。

僕はこんな理由で歴史的な背景は雑学レベルの話だなぁと思っていました。ですから、歴史を学ぶモチベーションは非常に低かったわけです。

事実、歴史というのは学ぶ必要性はないわけです。理系の道を進むにあたって、歴史の知識無しでもここまでこれました。(今となっては、もっと前から歴史を知っていれば、深い学びができたなぁと思うわけですが)

科学と歴史が結びつくきっかけ

歴史に興味のなかった僕ですが、教科書の導入部では歴史的な背景が書かれていることが多いため、なんだかんだエピソードが少しずつ記憶に残っていました。科学技術のきっかけになる発見は、当時の技術や社会に基づいてスタートするものです。ですから、教科書の導入部分では歴史的な背景が書かれるわけですね。

例えば、量子力学の本(確か岸野正剛さんの量子力学の本だったと思います)では、ドイツのビスマルク政権下で鉄の政策がなされている際に、熱した鉄からみえる光で職人が鉄の温度を見極めており、それをプランクの研究室で研究し始めたところ、研究室の学生の貢献もあってプランクの法則を見つけた。というエピソードです。量子力学のきっかけに、ドイツのビスマルク政策が関わっていたことを知りました。こんな風に歴史の小さなエピソードが科学技術とともに記憶に残っているという状態でした。そのとき読んだ本の著者の語り口が絶妙に面白く、エピソードが記憶に残っていたことが幸いして記憶に残っていました。

いつ・だれに発見された現象であるか知ると、これまで単調にみえていた法則や式の背景がみえてきて一層味わい深くなることを知ったのです。人名のついている法則も多いですが、その人物について知ると只の方程式に感情をのせることができるようになります。

とはいえ、歴史については殆どわかっていません。僕は高校から理系に進んだので、高校1年生の頃に世界史の授業を受けて以来ですね。アケメネス朝ペルシャやゾロアスター教などといった語感がいい単語だけ覚えています。授業ではローマ帝国あたりまでは習った気がしますが、正直覚えていないですね。

近代史を学ぶきっかけ

そんな僕ですが、最近、近代史を学ぶようになりました。きっかけを明確に思い出せないのですが、マンハッタン計画という原子爆弾開発の歴史を調べていたときだったと思います。

マンハッタン計画には、知っている物理学者たちが勢ぞろいしていることに気づきました。自分がこれまで研究してきた理論などにでてくる歴史上の人物たちが、同じ目的のために一堂に会していたわけですね。まるで物理界のアベンジャーズといったところでしょうか。(この計画の目的は原子爆弾開発であり、このマンハッタン計画の成果としてできた原子爆弾が投下されたのは日本です。非常に複雑な気持ちになります。少し気が紛れることとしては、開発時の仮想敵国はナチス・ドイツだったこと、日本への投下に際しては多くの物理学者が反対したこと、原爆投下後に多くの物理学者が声明を発表したことですかね。)

というわけで、マンハッタン計画に興味をもちはじめ、歴史的な背景を調べ始めました。そこから「科学史って面白いかも」と思い始めます。

ちょうどその頃、面白いコンテンツに出会います。

まずは、NHKの「映像の世紀」という特番です。映像の世紀スペシャルの第2集「戦争 科学者たちの罪と勇気」では、科学と歴史(特に戦争)との結びつきがとても興味深く紹介されています。そこから、映像の世紀シリーズをひと通り観て学ぶことができました。やはり映像から学ぶことは多く、リアリティをもって歴史を学ぶことができます。

PrimeVideo

次に、「池上彰の現代史講義」というTVシリーズです。現代ニュースにつながるような近現代史を集中講義として信州大学でおこなったときの映像です。池上彰さんのわかりやすい講義で、雑学も交えて紹介されています。東工大で授業したときの記録も書籍化されていますが、毎回わかりやすい説明のためどんどん記憶に残ります。その後も池上さんの著書をaudibleというオーディオブックのサービスで読み続けています。

また、最近は「中田敦彦のYouTube大学」というオリエンタルラジオの中田さんのYouTubeチャンネルです。エクストリーム授業と称して世界史や日本史を十数回の授業に纏めています。中田さんは本当に魅力的な人で話が面白いです。歴史の話を聞いて笑ってしまいます。歴史ってこんなにエンターテイメントだったんだなぁと感心し、学びとは楽しいことなんだと実感させられます。

科学が変えた戦争のかたち

戦争と科学というのは、密接に関わっています。

例えば、第一次大戦を例に挙げましょう。大戦直前の10年間でどんな科学技術のトピックスがあったかというと、1903年にライト兄弟による人類初の有人動力飛行に成功し、1908年にはフォード社が世界初の量産自動車「フォード・モデルT」を発売しました。つまり、人類は1900年代に飛行機と自動車を手にいれ他のです。1914年からはじまった第一次大戦ですが、開戦当初は歩兵による戦いでした。古くから続く戦争の形だったわけです。ところが、各国とも科学技術を駆使して戦いをおこなうようになります。飛行機は戦闘機に変わりました。自動車は戦車に変わりました。他にも自動小銃や火炎放射器など一度に多くの兵士を倒すことのできる兵器が開発されました。科学技術が戦争の戦い方を大きく変えたわけです。

必ずしも負の一面を生み出したのかというとそうでもありません。このときの技術進歩が、後の航空機産業や自動車産業の発展に貢献したわけです。また、無線通信技術は、ラジオを生み出しました。時は流れて、現代の通信産業のきっかけになっているわけです。また、火薬の製造技術は、ナイロンという素材を生み出しました。例えば、デュポンという化学メーカーは、第一次大戦で火薬製造の最大手だった企業ですね。

先ほどマンハッタン計画を紹介しましたが、原子爆弾もまさに科学史の一つです。アインシュタインが1905年に特殊相対性理論、1916年には一般相対性理論を発見します。そして、1938年に核分裂反応が発見されました。これら一連の研究によって、世界中の物理学者が原子爆弾の可能性に気づくのです。そして、アメリカで進められたマンハッタン計画という原子爆弾開発では、英米カナダの有名物理学者が勢揃いして開発されました。このときの原子爆弾の開発は、原子力発電につながってきます。日本は原子力に翻弄されている国です。ここには科学が強く結びついているわけですね。

アニメも映画もより深まる

世界史は科学技術だけではありません。本当に身の回りのことに密接に関わっています。

音楽の歴史では、クラシック音楽が終わり、20世紀にはアメリカを舞台にブラックミュージックやロックミュージックが中心になってきます。きっかけは第一次大戦です。

映画の歴史としても、喜劇王チャップリンをはじめ、歴史の渦の中で活躍した俳優や映画監督というのも多いですね。何度観ても「独裁者」の演説シーンは感動します。ナチスがプロパガンダ映画づくりがすごかったことも有名ですが、日本でも映画会社として有名な東宝がプロパガンダ映画をつくっていました。ゴジラで有名な円谷プロの創設者である円谷英二が撮影の陣頭指揮を執っていました。

小説やアニメも楽しめることになります。最近話題の「鬼滅の刃」は大正時代(1912~1926年)ですから、第一次大戦〜戦間期ですね。宮崎駿監督の「風立ちぬ」は戦間期に零式艦上戦闘機を開発した堀越二郎の映画ですね。

さらに旅行も楽しめるようになります。建造物の歴史的背景を知ると、観光地を深く楽しめるようになるでしょう。

このように、歴史を学び始めるとこれまでの知識が結びついていきます。これが本当に面白いです。

学びのコツは「近代史から時代を遡る」

僕なりの歴史の学び方ですが、近代史から時代を遡って勉強しています。近代史を学ぶと、さらにその前の時代を知りたくなってきます。不思議とどんどん興味が生まれて、自然に学べていくものです。

科学史的にいえば、相対性理論と量子論の20世紀、電磁気学の19世紀、力学の17世紀と遡っていきます。現代や近代の科学を学ぶと、いかに以前の科学の恩恵を受けているかがわかります。たとえば、量子論を学ぶといかに時代背景が重要だったことがわかるので、19世紀に対して興味が強くなるわけです。

最後に

今回は僕が近代史を学び始めたきっかけについて書いてみました。

理系は理系で文系は文系と、自分の分野を狭めてしまいがちですが、横断的な学びが本当に面白いことがわかります。たくさんの観たアニメや映画、本が結びついていくのですよ。本当に面白いです。

今後も僕が面白いと思ったトピックスを紹介していきたいと思います。また、りか旅として、理系スポットについても紹介しています。

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