原子力の夜明け【マンハッタン計画直前】

原子力の夜明け『核分裂の発見』

1939年を原子力の夜明けということがあります。核分裂が発見された年です。

リーゼ・マイトナーは当時では滅多にいなかった女性物理学者でした。ちなみにキュリー夫人(ノーベル物理学賞と化学賞を受賞した女性物理学者)の11歳年下です。ウィーン大学初の女性物理学博士だったそうです。当時は、女性の研究者としての道は狭く、ウィーン大学は創立から541年の間で、たったの一人も物理学の博士号を取得したことがなかったそうですから凄い人です。

ベルリンのヴィルヘルム研究所(現・マックスプランク研究所)で マイトナーは、オットー・ハーンやシュトラスマンと共に実験をおこない、世界初の核分裂反応の発見をしました。当時は、パリではジョリオ・キュリー夫妻とサヴィッチ、ローマではエンリコ・フェルミらが世界中で同じような実験をやっていました。いつ発見されておかしくなかったわけです。

マイトナーは世界情勢に翻弄されて物理学者でもあります。少しエピソードを紹介します。

実は、マイトナーをはじめ他のグループも、核分裂反応が起きるなんて誰も思っていませんでした。自然界にある最大の元素であるウランに中性子を吸収させて、ウランよりも重い元素「超ウラン元素」をつくろうとしていたのです。ところが、実験をしてみると、ウランに中性子を吸収させると何故か軽い元素がでてきたのでした。これには、マイトナーもオットー・ハーンも仰天してしまいました。ちょうど、そんな実験の最中、ナチスのユダヤ人狩りが始まり、マイトナーは辛うじてオランダへ逃亡します。

ドイツに残っていたハーンは、ウランに中性子を当てたときに生じる軽い元素がバリウムであることを突き止めました。そして、原子核分裂が起こったのではないかと、推測したわけです。しかし、化学者であるハーンは理論的な考察ができずに、マイトナーへ連絡し物理的な解釈を求めたのです。

マイトナーはオランダで甥のオットー・フリッシとともにこの現象の物理的理解に取り組みました。オットー・フリッシも、当時、ニールス・ボーア研究所で研究していた優秀な物理学者です。後にアメリカでマンハッタン計画人参加することにもなります。余談ですが、ニールス・ボーア研究所は、ボーアが設立した研究所で仁科も留学していた研究所でした。マイトナーは、1935年ワイツゼッカーと1936年にボーアによって提唱された液滴型原子モデルを思い出したのでした。核力は核子同士に至近作用ですが、液滴モデルでは表面張力に相当します。中性子を吸収した原子核は、エネルギーが高くなり液滴のような核が振動してピーナッツ型になります。そこで、核力が弱まり、クーロン力が核力に勝ることで分裂するというモデルです。このモデルから計算される、1つのウランから放出されるエネルギーは、2\times10^8 eVでした。

また、マイトナーはアインシュタインの相対性理論についても知っていました。アインシュタインの式E=mc^2は、質量とエネルギーが等価であることを示しています。実は、分裂前のウランの質量に比べて、分裂後の物質の質量の総和は軽くなっていることがわかりました。この質量の減量を質量欠損といいます。質量欠損からエネルギーを算出すると、これも2\times10^8 eVであるとわかったのです。

核分裂が止まらない『ウランの核分裂連鎖反応』

1つのウランから放出されるエネルギーは、2\times10^8 eVした。ウラン1 kgでは、ウランは10^24 個となります。当時、主流だった爆弾のTNT爆弾の2万6千トン分になることがわかったのでした。核分裂からは、とてつもなく大きいエネルギーが取り出せることがわかります。

ウランがやばいのが、この核分裂がネズミ算式に膨れあがっていくことです。これを核分裂連鎖反応といいます。ウランは中性子を1つ吸収することで核分裂しますが、核分裂した際に、平均2.5 個の中性子を放出します。1つのウランが核分裂すると、次は2.5個のウランが核分裂して、次は2.5^2 個、その次は2.5^3 個のウランとどんどん増えていきます。これが核分裂連鎖反応です。まさにねずみ算式に反応が連鎖していきます。実際に、原子爆弾の半分以上のウランが最後の一代で一瞬にして反応を起こします。核分裂連鎖反応では一瞬にして反応が進むため、もれなくウランが分裂してエネルギーが放出されます。

このように、ウランの核分裂を知ると、原子爆弾をつくることができると言っているようなものですね。

オットー・ハーンとリーゼ・マイトナーのその後

核分裂反応の発見をしたオットー・ハーンはノーベル賞を受賞しました。ところが、共に実験をおこない、核分裂反応のメカニズムを明らかにしたリーゼ・マイトナーは受賞しませんでした。この人は過小評価された悲劇の女性として名前があがります。マイトナーは、109番元素のマイトネリウムとして周期表に名前を残しています。

また、「この世界の片隅に」の原作者・こうの史代さんが、マイトナーの漫画を書いています。

最後に

今回は、原子力の夜明けについて紹介しました。次は、マンハッタン計画について紹介していきましょう。

最後に僕が昔に描いたメモを紹介します。