「テセウスの船って聞いたことあるけれど、よくわからないなぁ。漫画やドラマのテセウスの船となんの関係があるの。簡単にテセウスの船について教えてくれないかなぁ」
そんな悩みを解決します。
本記事では、テセウスの船を扱います。これは有名なパラドクスです。パラドクスとは、わかっているようで実は曖昧な理解であるものについて問題提起するものです。科学技術の多くはパラドクスの解決を通して進歩を続けてきました。今回は、同一性について問いかけられるパラドクスです。
なお、僕は研究者として生計を立てつつ、サイエンス・エバンジェリストとして科学技術を世間に伝えるための教育活動もしています。こういったバックグラウンドなので、記事の信頼性が担保できるかと思います。
というわけでさっそく見ていきましょう。
テセウスの船とは、同一性について疑問を投げかけたパラドクス
同一性とは、「何をもって同じものだというのか」ということです。自分に対する同一性のことを、自己同一性といいます。英語ではアイデンティティといいます。
ギリシャ神話のテセウスの船
テセウスが、クレタ島から帰還した船が問題だ。テセウスの船をアテネの人々は大切に保存していました。船の朽ちた木材は徐々に新たな木材に置き換えられていました。そこで、ある者は「その船はもはや同じものとは言えない」とし、別の者は「まだ同じものだ」と主張しました。
皆さんはどう思われるでしょうか。この船は、テセウスの船といえるでしょうか。
類似のパラドクスもあるようです。
ヘラクレイトスの川…川には常に違う水が流れているので、同じ川に2度入ることはできないという主張です。
お爺さんの古い斧…刃が何度も交換され、柄が何度も交換された斧であっても、お爺さんの古い斧だという。Grandfather’s old axeという冗談で使う表現です。
テセウスの船はどちらの船か
「置き換えられた古い部品を集めて別の船を組み立てた。」
更なる疑問を投げかけてみましょう。古くて交換してしまった部品を集めて、新たな船をつくったとしましょう。そのとき、新たな部品で置き換えた船、古い部品でつくったもう一つの船。どちらがテセウスの船なのかという疑問が湧いてきます。
人間の自己同一性
生物の同一性
実は、生物も同じパラドクスをもっています。生物の体のなかの細胞は、食べ物などをもとに常に新しい細胞をつくっています。新しい分子に置き換わっているのです。つまり、僕たち人間もテセウスの船というわけです。
サイボーグの同一性
僕たちは他にも疑問の対象になります。全身サイボーグ化した人間は、同じ人間といえるでしょうか。
全身サイボーグというと、少し大げさですね。しかし、これまで人類は、メガネによって視力を増強するなど道具による能力の代替や拡張をおこなってきました。他にも、ノートやパソコンのドライブやデータベースは、脳の記憶ともいえます。
身体が他の物質や装置に置き換わっても、同一の人間といえるのでしょうか。
アイドルグループの同一性
身近なところでは。アイドルグループもこの疑問の対象でしょう。僕たちが子供の頃に夢中になった「モーニング娘。」は今も「モーニング娘。」として活動しています。しかし、当時のメンバーはおらず、現役メンバーに変わっています。これは同じ「モーニング娘。」なのでしょうか。
「どこでもドア」が投げかける疑問
どこでもドアのように空間を自由に移動できたらいいですよね。SFの世界では、人間を空間的に転送させる転送装置が良くでてきます。この転送装置は、人間をスキャンして、情報のみを転送し、転送先でその人間を再構築します。
パラドクスの答え「質的同一性」
同一性の問題は、答えはありません。科学とは違い、僕たち人間がどのように定義するかで変わるからです。
一般に、質的同一性が満たされていることが、僕たちが同一視をするポイントのようです。つまり、性質が同じかどうかです。
テセウスの船も、物質は置き換わっているが性質は変わっていないと考えます。だから、テセウスの船と見なせるのです。ヘラクレイトスの川もヘラクレイトスの川と見なせるし、お爺さんの斧もお爺さんの斧と見なせるのです。ただし、同一性とは定義しだいで変わるものです。質的同一性を答えとするのはあくまで一つの考え方です。
最後に
テセウスの船ですが、同一性について考えさせられるパラドクスでしたね。生物学や医学にも関わってくるパラドクスだったかと思います。
実は、このテセウスの船がタイトルになっている漫画がありますね。あまり科学技術要素はありませんが、Kindleで1, 2巻は無料なので、読んでみてはいかがでしょうか。(今日、面白くて10巻セットを買って、読んでしまいました。それがきっかけでこの記事も書きました。しかし、結構高かったー。)
また、なんとドラマも始まるそうです。2020年1月19日(日)からTBSの日曜劇場で9時から始まります。(こんなタイムリーな偶然はなかなかないでしょうから、おそらく僕は何かの広告にひっかかったのでしょうね。)
それにしても、パラドクスは面白いものです。ではまた。