【アメリカ】幻になった究極の加速器SSC【中止】

幻の加速器SSCを知っているでしょうか。かつてアメリカで開発されたものの、計画途中で打ち切りになったプロジェクトです。世界最大の加速器をつくろうとしていましたが、幻になってしまいました。

僕は、儚いものに惹かれるようで、「幻になった」とか聞いてしまうと気になってしまいます。頭にずっと残っていたので、今回、幻の加速器となった SSC 計画について興味を持って調べました。ちなみに、出会いはこの本「量子物理学の発見」というノーベル物理学賞受賞者レーダーマンの本です。この本の中で、レーダーマンがSSCをひたすらに悔やんでいます。冒頭の話は、いかに愚かな選択をアメリカがとったのかなどと愚痴が止まらないのです。というのもレーダーマンはこのプロジェクトの中心人物の一人だったのです。

SSCといっても、物理好きではないとなかなか知らないかもしれないです。ただ、過去の本のタイトルをみても如何に期待されていたプロジェクトだったかわかります。日本でも、1992年にブルーバックスから出版された本でも究極の加速器と銘を売って紹介されています。

このプロジェクトの中止によって、多くの研究者たちはCERNのLHCを開発していたヨーロッパに移りました。言い換えれば、このプロジェクトが中止になったことは、最先端科学がアメリカからヨーロッパへと移ったきっかけにもなったといえます。

そんな歴史的なプロジェクトの失敗は興味が出るのも当然でしょう。正直調べて面白かったです。今回はそのプロジェクトの経緯に注目して説明していきます。

幻の加速器SSC

加速器は、新しい元素を発見したり、この世界の謎に迫る物理学の発展に大きく貢献しています。物理学の最先端は加速器の中にあるのです。

世界最高の加速器は、スイスとフランスの国境にあるLHCです。ラージハドロンコライダーの略です。しかし、完成していればLHCを超えていた加速器があります。

それが幻の加速器SSCです。Superconducting Super Colliderの略で、「超伝導技術を使った凄い加速器」という意味です。

増えすぎた予算

SSC計画が滅びた理由は、増えすぎた予算です。流れを少し詳細に紹介したいと思います。

この話は1986年から始まるので、平成生まれの僕もまだ生まれていません。時代は、ソ連が崩壊する少し昔です

当時、アメリカは間違いなく科学の最先端にでした。ヒトゲノム計画アポロ計画をはじめ、多額の予算が科学に注がれていたのです。そして、これら巨大プロジェクトと肩を並べていたのが、巨大加速器プロジェクトであるSSCでした。

世界一の加速器を新たにつくろうと、物理学者たちが設計グループをつくりました。加速器とは、物質や世界どんなものからできているか調べるために必要であり、大きな顕微鏡のような装置です。最先端の科学、とりわけ物理学においては大きな加速器を持っていることではじめて、最先端の物理実験を行えるのです。発足した設計グループは、時間がない中でレポートを作成しました。これがSSCのはじまりです。このレポートに基づき、53億ドルものアメリカの国家予算が投入されました。

しかしその数年後、「当初のレポートは甘い設計に基づいており不十分であった」ということが研究者の中で囁かれ始めた。設計の見直しをおこない、危ない設計については修正がかかりました。そして、1990年新たな設計とともに83億ドルの予算が必要であるという新たなレポートが提出されたのです。

30億ドルもの予算増大を議会は認めず、結局この SSC 計画 は中止となりました。これが事の経緯です。

掘られたトンネルは遺跡に。

すでに計画は開始していたので、トンネルは掘られていました。残念ながら努力も水の泡、掘ったトンネルの一部は今も空洞として残っています。

私自身はダラスにいったことがあるのですが、広大な土地が広がっており、まぁトンネル一つ残っていても困らないだろうなとは思いました。

幻の加速器SSCは凄かったのか。LHCと比較してみる

すべてが計画通りに進んでいたなら、巨大なこの米国の高エネルギー物理学プロジェクトはすでにヒッグス粒子を発見し、欧州の競合他社との競争に確実に勝っていたでしょう。実際、ピーター・ヒッグスは数年前に物理学ノーベルを収集したかもしれません。

テキサスに建設予定だった超伝導スーパーコライダー(SSC)は、これまでに建設されたどの加速器よりも20倍大きいエネルギーを誇り、ヒッグス粒子やその先を発見するだけの性能が出せるように設計されました。

高エネルギー陽子と衝突する加速器であるSSCのリングは、ダラスの南48キロメートルにあるテキサス州ワクサハチーの小さな町を一周し、周囲87.1キロメートルになります。世界一の加速器になるはずでした。陽子あたり20テラ電子ボルト(TeV)でLHC衝突の5倍のエネルギーがあったはずです。ビーム輝度は1/10しかありませんでしたが、エネルギーの高さによりLHCと比べても様々な現象が発見できただろうと考えられているのです。

実際に物理学の進歩が少し遅くなってしまったのは間違い無いのかもしれないです。

日本でも伝説の加速器が生まれるかもしれない

現在、日本でもILC計画という加速器プロジェクト計画が検討されています。

ILCというのは、International Linear Colliderの略です。日本の岩手県に作られる予定になっています。ヒッグス粒子がたくさん生み出せるような加速器で、LHCのような円形加速器ではなく、線形の加速器です。しかし、ここ数年で雲行きが怪しくなっているらしいのです。というのも、2018年末に日本学術会議が「ILCの日本誘致を支持するには至らない」の意見書を提出しました。これは事実上の計画が拒否されたと考えられているようで、状況はかなり苦しいそうです。「想定される科学的成果」が、日本が負担する巨額経費に見合わないという理由だそうです。

まだ、幻になった訳ではありません。やはり国際プロジェクトを誘致すると、建設や装置製作はその国でおこなわれ、経済が活性化し技術力がつくという利点があります。誘致国の企業が優遇されるのは、会議などが円滑に実施できるほか、運搬コストや運搬時の損傷リスクが下がるからです。結局、その国や地域の技術力が育つ訳です。また、世界トップの研究者たちが集まることで、学術会議も増え、結果としてその国の技術力は上がるといった利点もあるです。

一方で、僕たちの税金が多く使われることになる訳です。国家財政圧迫というのが欠点です。私たちの生活の役に立たないかもしれない装置にどれほどのお金を投じて良いのかは、その国が科学技術をどれほど重んじているかに依ります。

最後に

SSCが中止になる経緯は、初期設計がいかに重要か、不確定な因子に対してどれだけ腹をくくれるか、その辺りが非常に緊張感を感じられる一件でした。

加速器というのは人類の知の結晶であると同時に、莫大な費用がかかる装置ですね。ですから、国の財政状況によっては、SSCのような幻の加速器が生まれる訳です。財政的な予測は非常に難しいですが、科学を推し進めることは本当に大事なことだと思います。ただお金が無駄にばらまかれるくらいなら、こういったプロジェクトに回して欲しいなとは思います。