簡単にわかるミイラの科学【即身仏】

「ミイラってどうやってつくられたんだろう。ミイラに興味があるが簡単な説明はないかなぁ」

そんな悩みを解決します。

今回はミイラの科学を紹介します。それぞれの地域のミイラの特徴と合わせて紹介していきたいと思います。

ミイラって考古学のイメージがありますが、科学的な視点で見たことがないですね。ミイラだって遺体をどのように処理するかという、技術力があります。今回は、そんなミイラを科学的な視点でみたいと思います。主に以下の4地域のミイラを紹介します。

ミイラの研究も発展途上です。なんと2020年11月には、エジプトで新たに100以上のミイラのひつぎがみつかったというから驚きです。

世界のミイラ

  1. エジプトのミイラ
  2. インカ帝国のミイラ
  3. ヨーロッパのミイラ
  4. 日本のミイラ

なお、僕は研究者として生計を立てつつ、サイエンス・エバンジェリストとして科学技術を世間に伝えるための教育活動もしていますので、記事の信頼性が担保できるかと思います。

参考にした文献は、こちらです。こちらの本はわかりやすく世界のミイラをまとめていますが、それぞれの地域におけるミイラの作り方をとても詳しく説明してくれています。とてもおすすめの参考書です。

教養としてのミイラ図鑑: 世界一奇妙な「永遠の命」

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それではみていきましょう。

ミイラ王国のエジプト

まずは、ミイラといえばここ。エジプトのミイラを紹介します。

エジプトでは、魂は不滅と考えられていました。死者の国が信じられていたそうなのです。ミイラというのは、やはり死生観が面白いと思います。科学技術の視点でエジプトのミイラをみてみましょう。

エジプトのミイラ技術は非常に高いものでした。ミイラは腐敗をいかに防ぐかがポイントとなります。そのため、エジプトのミイラづくりでは、まずは腐敗を避けるため内臓や脳を取り除き、その上でおがくずを身体に詰め形状を整えたそうです。そして、腐敗防止のためソーダ石(ナトロン)を遺体に塗りこんで浸透させます。最後に、包帯を巻きつけて、乾燥させてミイラの出来上がりです。ミイラづくりでは、腐敗防止に徹底していることがわかりますね。

ミイラを死体として扱わないインカ帝国

中南米のアンデス地域にはインカ帝国がありました。ここでのミイラも特徴的で、エジプトに次いで有名なミイラ生産地だそうです。当時、ミイラは死者として扱われなかったそうなのです。生きている時と同じように共に食卓を囲み、話しかけたりしていたそうです。エジプトとは全く違った扱いですね。特徴的なのが、子供や赤ん坊のミイラが多いことです。子供の死を受け入れきれず遺体を連れて歩いていたことが、この地域でのミイラ作りのはじめりと考えられています。また、儀式の生け贄になった子供のミイラも多かったそうです。

昔、ドキュメンタリー番組で、子供を亡くしたチンパンジーがその遺体を連れ回している映像を見たことがあります。それに近いでしょうか。

製作もエジプトとは異なり、内臓を残したままで一度切断し、そのあとに木の枝などを用いて人形のように組み立てたそうです。また、泥で塗られた泥塗りミイラが盛んにつくられたことも有名です。

ヨーロッパの地下納骨堂。そして、アイスマン、エンバーミング処理

ヨーロッパのミイラはまた少し変わった特徴があります。宗教と関わっていて教会の地下に納骨堂があることが多いです。有名なところでは、イタリア・シチリア島にあるカタコンベや、フランス・パリにあるカタコンブ・ド・パリです。カタコンブ・ド・パリは、なんと600万人の人骨が収められているのだそうです。乾燥した気候に加えて地下であることが腐敗対策になっているそうです。

昔、パリに行ったことがあったのですが、こんな知識はありませんでした。今、行けたら是非とも一見してみたいものです。

他にもヨーロッパには、面白いミイラがいくつかあります。

その一つが、世界一有名なミイラの一つであるアイスマンです。アイスマンはアルプスの氷河から見つかったミイラです。なんと5300年前のあいだ、アルプスで氷漬けにされていたそうです。持ち物などから当時の暮らしがわかるため、アイスマンは考古学的にも非常に意味の大きいミイラだそうです。

また、ロシアには近代に作られたミイラがあります。そして、そのミイラになった人物とは、ソビエト連邦の初代指導者であるレーニンの遺体なのです。ロシア・モスクワにある赤の広場、そこにレーニン廟があります。そこには、レーニンの遺体がミイラとなって保管されています。古代のミイラと異なり、エンバーミング技法という近代の標本づくりに近い技法が用いられており、今でもまるで生きているかのような見た目なのです。レーニンのほかにもエンバーミング処理をされている著名人がいます。ソビエト連邦のレーニン、スターリン。中国の毛沢東。北朝鮮の金日成、金正日。なお、蔣介石もエンバーミング処理されている。社会主義国の指導者が多いようです。

日本では即身仏

永遠の肉体をつくり魂を宿すという即身仏という仏がいます。宗教的には全く違うが、科学的にはミイラの一種でしょう。しかし、自らミイラ化するというのは、”ミイラ”という言葉とは大きく印象が異なります。

即身仏がどのようにして生まれるかを流れを紹介します。まずは木食行といって、ミイラになる準備を長い月日をかけておこないます。木の実を食べて身体の脂肪と水分を落としていきます。そして、充分に脂肪と水分がなくなってきたら、漆の樹液を飲みます。漆の樹液は、腐食防止剤の働きがあるのだそうです。次に、土中入定をおこないます。石で固めた地下室をつくり、そこへ入ります。これが絶命するまでのしばらくの間は、水だけ地上から運んでもらいます。絶命したあと、その水の入り口も塞ぎ、密閉します。こうして、地下の密閉空間を作りそこでミイラとなるのです。

即身仏は、新潟や山形などの東北〜北陸地域に多いです。有名な即身仏は山形県鶴岡市の真如海上人です。浅間山噴火が起きた1783年、この頃、大飢饉が起こっており、即身仏になることを決めたそうです。

最後に

ミイラとしてまとめましたが、それぞれの地域でミイラづくりの背景となる文化や宗教観や死生観が全く異なります。しかし、人間の死を直接目にして感じるものは、どのミイラも大きいですね。また、怖さがある一方で好奇心を擽ります。

補足

参考にした文献は以下です。もっともっと詳細に当時の文化や慣習が紹介されていますので。良かったら参考にしてみてください。