簡単に不確かさがわかる【不確かさ】

「誤差、不確かさ、エラーバー…説明を聞いてもややこしいし、よくわからないなぁ。誰か簡単に教えてくれないかなぁ?」

そんな期待にこたえます。

今回は、不確かさについて紹介したいと思います。誤差とか、誤差論とか、不確かさとかややこしいですよね。しかし実験結果を正しく扱うときには、必要な知識です。今回は、誤差や不確かさを学ぶ前に知っておくべきことを紹介したいと思います。

僕の物理学の勉強歴は12年ほど。研究者として生計を立てつつ、サイエンス・エバンジェリストとして科学技術を世間に伝えるための教育活動もしています。

誤差論はもう古い!

誤差の扱い方は「誤差論」と言われます。誤差とは「真値」に対するずれのことです。誤差を「統計誤差」「系統誤差」という二つの種類に分けていました。

統計誤差とは、毎回異なるずれかたをする誤差のことです。「偶然誤差」「精度」「ばらつき」とも呼ばれていました。これは、結果の値がばらついてしまうときのばらつきの程度を表す量です。一方で系統誤差とは、真値に対して決まったずれかたをする誤差のことです。「正確さ」とも呼ばれていました。これは、結果の値がずれてしまうときのズレを表す量です。

誤差論の時代は終わりました。90年代から「不確かさ」という量が主流になっています。

「不確かさ」が主流になっている

「不確かさ」という量で測定のばらつきを示すことが推奨されています。簡単にいえば、「統計誤差も系統誤差も区別なく扱う」方法です。誤差論の大きな欠点として、統計誤差と系統誤差の区別が曖昧だったことです。そのため、人によって解釈が変わり、誤差解析が曖昧なものになってしまうのです。

立場の違いもあります。誤差論においては、「真値」とのズレを誤差としていました。不確かさにおいては「真値は知ることができないもの」だという立場をとっています。

世界的なルールが決まっている

国際標準化機構のISOが中心となって、1993年にGUMというガイドラインがつくられました。GUMとは、Guide to expression of Uncertainty in Measurement(測定における不確かさ表現のガイド)の略です。

日本でも産業総合研究所が中心となって不確かさの取り扱いについて研究しており、GUMの日本語化などを進めています。

不確かさの取り扱い

不確かさを計算することを不確かさ解析といいます。分散の平方根を用いて計算します。標準偏差に対応する不確かさなので、「標準不確かさ」とよびます。

ここで分布の形にも注目する必要があります。分布が正規分布(ガウス分布)であれば気にしなくて良いですが、矩形分布であれば√3、三角形の分布であれば√6で除します。(正規分布を仮定しなくて良いというのも不確かさ解析の特徴です)

絶対不確かさ、相対不確かさ

絶対不確かさは、測定値の不確かさの大きさです。不確かさといえば普通は絶対不確かさのことです。

一方で相対不確かさとは、測定値と絶対不確かさの比をいいます。例えば、テスターを使い測定した電圧が100 Vだったとします。このときの絶対不確かさが1 Vだったとすると、相対不確かさは0.01です。%やppmをつかって表現することもあります。0.01であれば、1%または10000ppmです。

合成標準不確かさ

合成標準不確かさとは、いろんな標準不確かさを積み上げていって算出できる不確かさのことです。不確かさの伝播式によって計算できます。ちなみに、これは誤差論で扱う誤差伝播式と全く同じです。合成標準不確かさの意味は、新たに測定をおこなうと、その結果は68%で不確かさの範囲内に入ることを意味しています。

拡張標準不確かさについてもふれておきます。包含係数を掛け算してやって、拡張標準不確かさを使うこともあります。標準不確かさに包含係数2を掛けてやると、95%にあがります。包含係数3で99.7%、包含係数5で99.9999%(通称シックスナイン)となります。物理の世界で新粒子の発見などの重要な現象では、包含係数5でも有意な差があってはじめて認められます。

エラーバーの無いグラフは信じるな!

昔、有名な研究者にそう教わりました。

その人によれば、エラーバーとは実験結果で一番重要なものといえるそうです。不確かさは「ある確率で測定結果がこの範囲に入る」ということを示しています。言ってみれば、測定結果の保証書のようなものです。不確かさの記載がなければ何の保証もない結果となるわけですね。特に、科学の研究などでは、実験の結果をもって、理論が正しいかどうかを確かめたりするわけですから、不確かさをしっかりと捉えておくことが必要になります。

グラフにエラーバーを描くときには、合成標準不確かさを使うことが一般的です。

最後に

このように「誤差」から「不確かさ」という概念の変更が始まったのが、90年代からです。現役の研究者やエンジニアの中にも、キャッチアップできている人とそうでない人がいますから、話をするときには注意が必要です。不確かさのほうが、簡単で明瞭なことがわかります。

今回は、少し真面目な話を取り上げてみました。このあたりの話は、産業総合研究所が出している不確かさの本に詳しく書いてありますのでお勧めです。

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